DRM不動産・武蔵小山放火事件とは何だったのか?優良企業の裏側に潜んでいた闇
「立ち退かないなら、燃やしてしまえ」
そんな言葉が、令和の東京で、しかも総資産178億円を誇る不動産会社の内部で飛び交っていたとしたら、あなたはどう感じるでしょうか。
2025年秋、東京・品川区の武蔵小山で、信じがたい事件が起きました。
不動産会社D・R・M(以下、DRM不動産)の社員が、マンション開発のための地上げ交渉が行き詰まったことを受け、実行役の男性5人を雇い、住民を脅すためにガソリンを撒いて放火するという、まるで昭和のヤクザ映画のような犯行に及んだのです。
しかも、この会社はいわゆる「ブラック企業」とは程遠い、三井不動産や三菱地所といった大手と取引する、業界でも信用力の高い会社でした。
なぜ、そんな会社でこんなことが起きてしまったのか。
今回は、この事件の経緯と背景を、できるだけわかりやすく整理していきたいと思います。
目次
DRM不動産・武蔵小山放火事件の概要
まず、事件の流れをざっくり押さえておきましょう。
DRM不動産は、東京・港区に本社を置く不動産開発会社です。
従業員はわずか28名という小規模な会社ながら、2024年12月期の純利益は約4億1,200万円、総資産は178億円にのぼります。
主要取引先には三井不動産、三菱地所といった超大手の名前が並び、「街の再生」を掲げる、どこから見ても優良企業でした。
そのDRM不動産が手がけていたのが、東急目黒線・武蔵小山駅から徒歩5分の好立地エリアにおけるマンション開発プロジェクトです。
ところが、地元の一軒家に住む男性(60代)が、長年にわたって立ち退きを拒否し続けていました。
再開発計画は止まり、プレッシャーを受けた社員・内藤容疑者(当時31歳)は、ついて一線を越えてしまいます。
2025年10月、対象となる一軒家の外壁に火をつけようとした放火未遂。
そして同年11月、今度は近隣の無人アパートにガソリンを撒き、実際に放火を実行。
この一連の行為は、住民に「次はお前の家だ」と恐怖を植えつけ、立ち退きを強制的に迫るための脅迫でした。
2026年2月20日の逮捕発表後、警視庁はDRM不動産の本社を家宅捜索し、捜査を継続しています。
内藤容疑者を含む実行役5人は、おおむね容疑を認めているとのことです。
それにしても、なぜ資金力も信用力も十分な会社が、こんなリスクの高い犯行に踏み切ったのでしょう。
その答えは、会社の「内側」にありました。
なぜ普通の社員が犯罪に手を染めたのか
DRM不動産の企業イメージは、外から見るととても「まとも」なものでした。
代表の住谷氏はコーポレートサイトで、「建物を壊し再生するだけではなく、街や人々が幸せになるための創造と再生」を語っていました。
社想として掲げていた「3つの福」、つまり「惜福(資源を惜しむ)」「分福(福を分かち合う)」「植福(福を植える)」は、一見すると非常に理念的で温かみのある言葉です。
しかし内部では、まったく別の空気が流れていたようです。
「数字がいかないなら、死ぬ気で案件をまとめてこい」
こうした言葉が上層部から日常的に飛んでいたと報じられており、成果至上主義が会社全体に染みついていたとみられています。
内藤容疑者も、そんな環境の中で地上げ担当として追い詰められていった一人だったのでしょう。
「上司の指示でやむを得ず」という供述も伝えられており、個人の問題というより、会社の構造そのものが犯罪を生んだという見方が強まっています。
外から見える「崇高な理念」と、内側にある「死ぬ気でやれ」という圧力。
このギャップが、事件の本質だったのかもしれません。
「年収1000万求人」と狂気のOJT
DRM不動産は、就職情報サイト「マイナビ転職」に【法人不動産営業】の求人を掲載していました(現在は停止)。
初年度年収例として392万〜1,000万円を提示し、「未経験OK」「先輩のOJTで全行程をお任せ」というキャッチフレーズで、若手を積極的に募っていました。
高収入、未経験歓迎、丁寧な研修。
これだけ見れば、魅力的な職場に映ります。
ところが、その「全行程をお任せ」の中に、地上げ業務が含まれていたとすれば、話はまったく変わってきます。
不動産の知識ゼロで入社した若者が、OJTと称して地上げ現場に放り込まれ、成果を出せなければパワハラを受ける。
そういう環境が繰り返される中で、「普通の感覚」が少しずつ麻痺していったとしても、不思議ではないでしょう。
「分福」という言葉が実行役への報酬分配に、「植福」という言葉がガソリン散布に置き換わっていったという指摘は、皮肉というより、もはや悪夢のような話です。
高収入の裏に何があるのか。
求人票だけでは見えない企業の実態を、この事件は改めて問いかけているように感じます。
武蔵小山という舞台と地上げ圧力の実態
事件の舞台となった武蔵小山は、東急目黒線沿いに位置する、近年人気が高まっているエリアです。
商店街や再開発の波が押し寄せる中、地価は過去10年で約2倍に上昇したとも言われており、不動産業者にとっては非常に旨みのある土地柄でした。
今回のターゲットとなった区画は、武蔵小山駅から徒歩5分の品川区小山3丁目付近。
木造2階建て、築40年超の一軒家と、その隣接する無人アパートが現場となりました。
近隣住民からは、「夜中にガソリンの臭いがした」「DRMの社員が何度も訪ねてきては脅し文句を言っていた」「子どもがいるのに本当に怖かった」といった証言が寄せられています。
10月の放火未遂の際には、男たちが逃げていくのを目撃した住民が警察に通報していたことも明らかになっています。
地価の高騰が地上げ圧力を生み、その圧力が犯罪へとつながっていく。
国土交通省の報告によれば、同様の脅迫事例は全国で20件以上確認されており、武蔵小山の事件は決して孤立したケースではないようです。
事件後、DRM不動産の開発計画は凍結され、現場周辺には今も立ち入り禁止のテープが残っているといいます。
この事件が私たちに問いかけるもの
DRM不動産の事件は、ひと言で言えば「優良企業の崩壊」です。
総資産178億円、大手との太いパイプ、崇高な理念。
そのすべてが、内側から積み上げられたパワハラと成果至上主義によって、自ら火をつけられてしまいました。
内藤容疑者をはじめとする逮捕者たちは、もちろん法的に裁かれるべき行為を犯しています。
ただ同時に、「なぜ普通の若者がここまで追い詰められたのか」という問いも、私たちは忘れてはいけないと思うのです。
会社の構造が人を壊すことがある。
求人票のきれいな言葉の裏に、まったく別の現実が待っていることがある。
地上げという行為が、どこまで人を変えてしまうのか——この事件は、不動産業界だけでなく、働く環境そのものへの問いを私たちに突きつけています。
裁判はこれから本格化していきます。
その行方を、引き続き注視していきたいと思います。
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